フィンランド参加者体験談 〜フィンランドの生涯学習の土台とは?〜

なぜGTPに参加したのか

 GTP 8thに参加したあおばです。
私はフィンランドの生涯学習やキャリアに対する柔軟な考え方に惹かれ、その土台となる学校教育に関心を持ち、今回GTPに参加しました。 

 私は高校の英語科教員として生徒と関わる中で、卒業後の進路についてさまざまな悩みに直面してきました。カリキュラムが定められた学校教育から離れ、自分のやりたいことを決めることは人生の節目となる大きな決断です。進路・受験指導を通して生徒の成長に喜びを感じると同時に、進路選択・受験という機会が大事であるがゆえに、間違いや失敗を恐れ、プレッシャーを感じる生徒が少なくないことを感じていました。私自身も十代の頃は勉強に対してプレッシャーを感じ、学ぶことの楽しさに気づいたのは大学に入ってからです。フィンランドの柔軟な考え方からヒントを得て、これからの自分自身の生活、生徒との関わりの中で活かしたいと思いました。

自分の学びについて

GTPを通して出会った学校の先生方のお話の中から、印象的だった言葉を紹介します。

「アートを学習から外すことはできない」

 学校には、生徒が創作するための設備や道具がたくさんあり、自己表現の手助けになっていると感じました。コウボラで訪問した中学校は、壁一面がアート作品になっていて圧巻でした。

 図書館には、本はもちろん、楽器・ミシン・3Dプリンターなどがあり、創作に必要なものが誰にでも手に届くことが印象的でした。図書館では本を読むだけでなく、絵を描いたり、スタジオで演奏したり、裁縫をしたりと、同じ空間に人それぞれの過ごし方があります。

 私たちのチームの授業実践では、書道で四字熟語の作品づくりを行いました。書道を体験するのは初めてという子どもたちでしたが、意欲的に取り組み、オリジナリティのある作品を作ってくれたことが嬉しかったです。

「ウェルビーイングが第一優先」

 ウェルビーイング(well-being)とは、well (良い)とbeing(~な状態である)を組み合わせた言葉です。
 世界保健機関(WHO)憲章前文の「健康」の定義の中に使われている単語です。

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
「健康とは、病気ではないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあることをいいます。」

 この「ウェルビーイング」こそがフィンランドの教育、幸福度の高さの土台となる考えです。「良い状態」というと、一見簡単なことに思えます。しかし、外的・内的要因によって、身体も心も社会的にも常に「良い状態」を保つことは意識していないと難しいのかもしれません。

 フィンランドの学校施設では「集中できる場」と「リラックスできる場」の空間へのこだわりが垣間見られました。教室にはさまざまな形の椅子や、視界や音を遮断して集中しやすくする半隔離スペースが見られました。子どもたちは、その時の自分の状態に応じて最も集中しやすい方法を選択することができます。

 また、休み時間は児童・生徒は全員外に出て、自然の中で遊びます。その間、先生方は職員室でコーヒーを飲みながらリラックスできるそうです。児童・生徒はもちろん、先生方のウェルビーイングも大切にされていました。

 以前は、環境や周囲に合わせるために自分を変える努力をするという選択肢しか知らず、それが当たり前だと思っていました。頑張ることも時には必要ですが、自分の感情と向き合ったり、自分に合うやり方を模索したりすることもできるという選択肢があることを知り、肩の力が抜けたような気持ちになりました。

実践したこと・気づき

Learning How to Learn

 「アートを学習から外すことはできない」という先生の言葉について、なぜそうおっしゃたのか、GTPの期間中には自分なりの答えを見つけることができませんでした。アートと学習は全く異なる活動ととらえていたからです。その後の滞在中に中学校のCraft(技術)とキャリアの授業を見学させていただく機会に恵まれました。

 授業では、自分で作りたいものを考える(ゴールを決める)→設計図を描く→手を動かす→どうしたらうまくいくかを考える→振り返る
というサイクルが存在していたのです。

 先生は、「『できない』『わからない』と言わず、どうやったらうまくいくかを考えなさい」と指導されていました。

 この考え方は、作品づくりだけでなく、学習やキャリアなど人生のあらゆる場面で応用できる大切な学びであると感じました。学校は「学び方を学ぶ(Learning how to learn)」場所であり、卒業しても自ら学び続ける土台を育む場になっています。

学ぶことは本来楽しい

 教室の外に出たときに、英語は広い世界とつながるための道具であることを再認識しました。フィンランドの公用語はフィンランド語ですが、現地の方は英語も流暢に話されます。
英語でコミュニケーションをとったり、フィンランド語がわからない時には翻訳してもらったりしていたため、「英語という共通言語があってよかった」と感じる場面がたくさんありました。

 そして、滞在中にフィンランド語を学び始めました。フィンランド語の難しさには四苦八苦しています。それでも、街に出た時に看板の単語の意味がわかったり、フィンランドの方同士の会話の単語が聞き取れたり、覚えた一言を伝えられたりするだけでも嬉しいものです。最初は全くわからなかった言語が少しずつ分かるようになると、文化や人に少し近づけたような気がしてワクワクする感覚があります。

 「試験のための勉強」だけだと、時に苦しくなってしまうことがありますが、新しいことを知り、自分の世界が広がっていくことは純粋に楽しいということに気付かされました。これからも生活に結びついた学びを楽しみ、そして学ぶ楽しさを広めていけるようになりたいです。

最後に

 GTPに参加し、フィンランドの教育現場を自分の目で見て、感じて、人と交流することができたことはかけがえのない経験になりました。今回の視察では、プレスクールから大学まで幅広い年齢層の学びを知る機会に恵まれました。その中で、答えがある学習と、答えがない自己表現の機会の両方が大切にされている印象を受けました。学校・公共施設において、やりたいことに取り組める軽やかさが、生涯を通して学びや自己表現を続けていくことにつながっていると感じました。

 本やインターネットからも多くの情報を得ることができますが、実際に自分が現地で体験することで、より一層学びが広がり深まっていきました。GTPでは事前・事後研修も含めてサポートしていただけたので、「自分ならでは」の学びができると思います。一緒に参加したメンバーもそれぞれの学びのテーマを持ち、同じ景色を見ていたとしても、さまざまな視点や感じ方があって面白かったです。新しい環境に飛び込むのは不安や怖さもありましたが、思い切って参加したことで、素敵な出会いに恵まれました。「一期一会」の言葉通り、自分が「やってみたい」と思ったこのタイミングだったからこそ、出会えた人がたくさんいますので、感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。

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